不正に揺れるトヨタ、会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」:朝日新聞デジタル https://digital.asahi.com/articles/ASS7L26DCS7LULFA00WM.html?ptoken=01J37FKBAK5HY22T2Y16DWD5NK 7月21日
16:09まで全文閲読可能。
「今の日本は頑張ろうという気になれない」
「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」
「日本のサイレントマジョリティーは、自動車産業が世界で競争していることにものすごく感謝していると思う」
「業界の中の人にも感じるような、応援はぜひいただきたい」
「(報道陣は)強い者をたたくのが使命と思っているかもしれないが、強い者が居なかったら国は成り立たない。強い者の力をどう使うかを厳しい目で見るべきだ」
感想:これは、批判への耐性が乏しい企業人の脆弱性ではないだろうか。正当な批判を攻撃と受け止めてしまい、反省の弁を出すべきところを自己正当化を図ってしまう。
人種差別や植民地問題に関する正当な批判を耳にした白人が「自分たちが攻撃されてしまっている」と受け止めてしまうことを「白人の脆弱性」と呼ぶ。
その変形としてここでは「企業人の脆弱性」という言葉を使ってみた。米国のテクノロジー企業でも規制当局との対決姿勢が目立つが、その一つの背景といえる。
引用元の投稿で紹介した朝日新聞の記事に対して、トヨタ会長発言を擁護する論調の記事が出ている。
https://fedibird.com/@AkioHoshi/112817589230211564
トヨタ会長、海外移転→日本脱出を示唆…国交省からのイジメ的行為に失望
https://biz-journal.jp/company/post_382372.html
なかなか興味深い内容なので紹介したい。まず、記事の「おかしな点」を見ていきたい。
(1) 記事のアジェンダ(議題の設定)がおかしい
"豊田会長の発言の真意は何か。また、もしトヨタが主要拠点を海外に移転させた場合、日本経済にどのような影響をおよぼすのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。"
いやいやいや……
今回はトヨタ会長の発言が失言として批判されているのだから、ここはまず「トヨタ会長は、どうするのが良かったのか」を論じる局面ではないだろうか。
(2) 対象読者の想定がおかしい
記事は、自動車業界とトヨタファンだけが読者であるかのような書き方。トヨタに中立あるいは批判的な一般読者がいることが、想像の範囲外にある。
記事の記述を見ていこう。
"不適切な点が発覚したのは6項目のみで、これは不正というよりは『ミス』"
"国交省が『不正』だとして騒いでメディアの報道に火をつけて、ことさらに事を大きく"
(続く [参照]
"豊田会長は不正発覚後の会見で、国の認証制度について時代に合わない基準や不明確なルールが多く現場に負担がかかっているとして、制度改善の必要性を主張するなど、国交省に逆らう"
"国交省はトヨタに対して厳しい姿勢"
"トヨタはいまだに(生産再開の)メドは立っておらず、国交省からイジメのような扱い"
この記事、トヨタ会長発言を擁護しようとして、結果的に後ろから弾を撃ってしまっている。
(3) 会長はどうするべきだったのか
企業のリスク管理の観点では、企業が不祥事、問題を起こしている局面で経営者が企業への追及を嫌がるかのような発言は悪手。
問題への批判を受け止め、株主、顧客、従業員、取引先らに「トヨタは問題に対して真剣に取り組んでいる」とメッセージを送ることが、不祥事に直面した経営者として最低限の務め。
トヨタの会長は高額の役員報酬(2024年3月期に16億2200万円)を得ているが、それは経営者として企業を守り支える振る舞いや発言に対する責任の対価でもあるのだ。
(4) 感想
記事から読み取れることは「トヨタ会長は不正問題で国交省との対決姿勢を見せ、両者の関係が悪化したこと」。だとすれば、経営者としての失点である。
(続く
参考:
トヨタ不正問題に関する6月の記事。上記投稿で紹介した記事と同じく、自動車評論家の国沢光宏氏がトヨタを擁護する論陣を張っている。
「メディアをトヨタの味方につけて、国交省と交渉しよう」という作戦だろうか。しかし、業界トップのメーカーという強者がメディアに訴え世論を操作することで国交省に影響を与えようとしているのなら——メーカーとメディアとの関わり方として健全とは言えない。もっといいやり方があるはずだ。
トヨタなど5社の認証不正『国より厳しい基準で独自に試験』その意味をわかりやすく解説 評論家・国沢光宏さん「国交省と民間が言い争いするのではなく日本がどうやって栄えていくか考えるべき」
https://www.mbs.jp/news/feature/specialist/article/2024/06/100646.shtml
補足:
トヨタ自動車の企業統治には疑義が出ている。
"米議決権行使助言会社グラスルイスは、豊田章男会長の取締役選任議案に反対するよう株主に推奨"
"取締役候補者10人のうち独立とみなせるのは3人だけ"
"東証の基準である「取締役の少なくとも3分の1が独立している」という条件を満たしていない"
https://jp.reuters.com/article/business/-idUSKBN2XH10I/
競合助言会社ISSも同意見。
"トヨタグループ内での不正が相次ぐ中、両社の判断がそろった。"
"ダイハツ工業などグループ内で相次いだ認証試験での不正問題に関して、長年トヨタの経営トップを務めてきた豊田会長に最終的な説明責任がある"
"企業文化を変えることに関するトヨタの主張とは逆に、実際はそれを維持しようとする傾向が疑われる"
https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/757566
今回のトヨタ会長失言問題も、「説明責任を求められ、うまく対応できなかった」事象のひとつ。
説明責任があるのはトヨタ自動車とその経営陣であることに注意したい。