映画『哀れなるものたち』(原題 "Poor Things" ヨルゴス・ランティモス監督、2023年、主演&プロデュースはエマ・ストーン)を鑑賞した。ベネチア国際映画祭金獅子賞。
「付いてこれるか?」と試されるような、バールのようなもので脳をゴリゴリこじ開けるような映画でした。映画館を出るときに「improve(改善/進歩)しよう!」と心に誓っているか、プンスカ怒っているか、打ちのめされているか——それは見る人しだい。私はなんだか元気になって映画館を出ました。
舞台はスチームパンク的な"もうひとつの"19世紀。『フランケンシュタイン』を下敷きに、無垢な魂が理性に目覚める、ある意味で啓蒙の物語。悪趣味なまでのリアリズム(性描写、解剖の描写あり)とSF/ファンタジー風味が混ざり合う、ある種の魔術的リアリズムの語り口。そして剛速球のフェミニズム映画。「フェミニズムのアキレス腱」とされる問題にも切り込む。
主人公ベラは最初は幼児語で話し衝動に生きるが、物語の中で理性と言語化能力を身に付けていく。決め台詞は「improveする(改善/進歩)」。世界を観察し、「資本主義にも社会主義にもとらわれるな。残酷な現実を知って身を守れ」というありがちなアドバイスを蹴っ飛ばし「現実を改善しよう!」と締めくくるのだ。