私の記事「OpenAI内紛劇の背後に『21世紀の優生思想』」に関して「功利主義の否定」と誤読している意見を見て、少し驚きました。この点を補足しておきます。
globe.asahi.com/article/150879

結論を先に述べると、当方の意見は「功利主義と人権の組み合わせが現実解である」というものです。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や、SDGsの数値目標の考え方は、この路線です。

功利主義は、功利の大小で判断できる分野では低コストで判断でき結論が分かりやすいメリットがあります。この特徴は産業・経済と相性が良く、そのため功利主義は社会の隅々まで浸透しています。

一方、功利主義に欠陥があることは、記事中で触れたように、高校生向けの本に載っているほどには認められ、広く知られている話である訳です。

そこで、現実世界の倫理規範として用いるには、功利主義だけではなく義務論や徳倫理のような別の規範倫理と組み合わることが求められます。

記事中で触れたように、人権(human rights)はそのように構築された倫理規範です。
(続く

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しかしEA(効果的な利他主義)の中心人物であるオックスフォード大学哲学科准教授ウィリアム・マッカスキルは、人権を故意に無視した結論を平然と語ります。

問い:火事の家で、1人の子どもを助けるか、高額なピカソの絵を助けるか?
答:ピカソの絵。売れば大勢の子どもの命を救える。直観に反する答であることは認めるが、現代ではお金の力は信じられないほど強力だ。

このような言説は、功利主義の欠陥に対する「故意の無知」の誤謬です。

なぜ、このような誤謬を語るのか。それは直観に反する過激な結論はテック界隈の投資家や起業家のウケがよく、また言葉が巧みなため言い抜けできるからです。

直観に反する「逆張り」の言説がウケて、EAは大勢のエリートの支持と巨額の資金を集めました。しかし、ビジネス上は成功しても人権を無視した思想は危ういと考えます。

なお、功利主義と人権をめぐる議論については、私が以前書いた下記の記事を見て頂けるとありがたいと思います。

自由と平等のブロックチェーン──倫理、人権と技術を接続する
note.com/akiohoshi/n/ne8d69e8f

功利主義の良い点と欠陥について、なるべく公平に触れています。そして、なぜ自分が「人権」にフォーカスしているか、そのひとつの根拠を説明する文章でもあります。

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