うちらの国の首相は、国連総会で何を喋ったのか?
報道の切り取りではよく分からない。全文にざっと目を通してみる。
https://gadebate.un.org/en/78/japan
岸田「私たちは、弱い立場の人々が安全で安心して暮らせる『人間の尊厳を大切にする世界』を目指すべき」
ふむふむ。良さそうな話をしてますな。
岸田「国際社会がいくつもの危機に直面し、分断が進んでいる今、私たちは皆の心に響く共通言語を必要としている。『人間の尊厳』に新たな光を当てることで、国際社会は体制や価値観の違いを乗り越え、『人間中心の国際協力』を着実に進めることができると信じている」
うーん?? 国際社会の共通言語といえば、平和と人権だ。それではもう響かない、と言いたいのか?
演説では"human dignity"(人間の尊厳)という言葉を13回も使っている。
気になるのは、人間の尊厳とは、要するに人権のことではないの? という疑問だ。世界人権宣言の前文は「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」と始まる。
一方でhuman rights(人権)は演説中で2カ所しか出てこない。
(続く
岸田首相の国連総会演説を「超訳」してみる。
超訳「世界はバラバラでもはや戦時下だ。国連の理念である平和と人権、核兵器禁止などヌルいお題目はもはや響かない。現実的な核軍縮や、現実的な国際協力(例:日本とミャンマー)の取り組みを進めるべきだ」
超訳「平和と人権に変えて『人間の尊厳』を提案する。これなら戦争中の国や極右政権の国にも響くでしょ?」
どんよりする点として、極右化が進む今の世の中、こうした考え方に理があると考える人もいそうだ——
改めて記す。
平和と人権は遠い目標だが、誰がどう考えても正しい目標であり、したがって国際社会全員が共有できる所に価値がある。
理念を共有する場が国連であり、現実を理念に近づける活動が平和維持であり人権擁護なのだ。
理念を軽視する限り、日本への世界からの敬意はどんどん失われていくだろう。
岸田首相の国連総会演説に関して、以前に感想を書いていたのですが、その答合わせ。
TBSの取材によれば、
"官邸幹部は「人間の尊厳」という言葉のチョイスについて、「『人権』という言葉を嫌がる国もある中で、誰もが共感できる言葉であり、将来的に日本がリーダーシップをとっていくために選んだ」と解説しています。"
感想1:これ、平和と人権を理念とする国連にケンカを売ってきたということでは?
感想2:するってえと何かい、うちら日本の首相はアンチ人権の国=極右政権の国々のリーダーシップを取りたい、と言っているのかい?? やれやれだぜ。
感想3:人権を嫌がる国とは、どこだ?
ロシア、中国、北朝鮮への配慮とは考えにくい。日本と関係が深い、あるいは今後関係を強化したいう国ということでは、インド、イラン、サウジアラビア、ミャンマー、トルコなどを想定しているのではないか。
岸田首相の演説、日本語訳がすでに出ていました。
岸田文雄首相の国連総会での一般討論演説 全文
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19C7O0Z10C23A9000000/
昨日、当方の感想を書きましたが、例え話をすると、
「今のコンピュータやスマートデバイスでは、OSやUIがバラバラで分断されている。そこで、CPUの動作原理であるプログラム内蔵型コンピュータに光を当てましょう」
みたいな話だよなあ。一見いいことを言っているようで、実は何も言っていない。むしろ、WWⅡ後の人類社会が積み上げてきた平和と人権のフレームワークと実践を故意に無視している点で悪質ですらある。
人の尊厳は、カント倫理学の概念であり人権の基礎だ。他者の尊厳を大事にするということは、平等な尊厳、平等な権利、つまり他者の人権を守るということなのだけれども、演説で言わんとしていることはそういう事ではないだろう。
演説を聞いた各国代表は、何を思ったのだろうか。席がガラガラだったという話もあり、そもそも聞いたいない人の方が多いかもしれませんが。