本日8月24日、福島第1原発の核物質で汚染された排水をALPSで処理し海水に薄めたもの(いわゆる「ALPS処理水」)の海洋放出が始まった。議論が割れやすい題材だし、SNSに書くことに意味があるのか——という思いは拭えないが、現時点の自分の考えをメモ。
www3.nhk.or.jp/news/html/20230
mainichi.jp/articles/20230824/

まず、漁協や海外諸国の異議を聞かない形での放出決行は残念。以下、箇条書き。

(1) 決定プロセスの正当性に疑問がある。核廃棄物の海洋投棄を禁じる国際条約に違反し、また「理解なしに放出しない」との漁協との約束にも違反。周辺諸国(韓国、中国、台湾、マーシャル諸島、フィリピン、等々)の反対意見も無視した格好。

(2) 科学的・技術的には、東京電力が発表するALPSの性能——ALPS処理水の放射性物質濃度の実測値が事実であるなら、計画通りに海洋放出をする限りにおいては、非常に低レベルの放射性廃棄物が環境中に放出されることになるものの、深刻な汚染にはつながらないはずである(なお低レベルだとしても核廃棄物の放出に反対する声があることに留意)。原子力技術の専門家集団であるIAEAは、東京電力のデータに基づきそのような結論を出した。
(続く

(続き)ただしIAEAも現地で調査を続けると言っている。つまりモニタリングは必須。このことは念頭に置きたい。

(3) 放出は40年にわたるとされる。40年の間にミスや設備劣化などによる事故が発生して深刻な海洋汚染が起こらない保証はない。この点は大きな問題。

(4)深刻な問題は東京電力が信用されていないこと。東京電力の隠蔽体質を信用しない声は根強い。そもそも福島原発事故そのものが「決して起きてはならない」種類の事故だったのであり、この先40年の無事故を信用してもらうにはいっそう誠実な対応と努力が必要だろう。誰に対しても正当性を主張できる放出決定のプロセスを取るべきだった。しかし政府・東京電力はそうしなかった。この点は非常に残念。

(5)以上踏まえた問題改善の私案は2点。1点目。漁協や周辺諸国などステークホルダーから信用してもらうため、東京電力や日本政府と利害関係がない(なおかつIAEA以外の)第三者団体による継続的なモニタリングを実施する体制の構築が望ましい。そのデータも踏まえ、漁協や諸外国との誠実なマルチステークホルダーの対話を継続的に実施するべきだ。正当な異議申し立てを黙殺する態度を取ってはならない。 (続く

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(6) 2点目、異論が多い海洋放出を中止し、より環境インパクトが低い処理方法に改めた方がベター。

候補として挙がっている手段は、(a)蒸発処理、(b) モルタル固化、(c)大型タンク長期保管。(a)は海洋放出の約10倍のコストがかかるとされるが、スリーマイル島での実施実績があり、またトリチウム以外の核種が放出されるリスクが非常に低い。(b)と(c)はトリチウム含め環境放出がないことがメリットだが、保管場所が必要。

いわゆる「風評被害」の補償や諸外国との関係悪化まで考えるなら、ALPS処理水の海洋放出に完全な理解が得られていない現状に鑑み、コストをかけて代替手段に切り替える方が国益に寄与するはずである。

以上が、自分の考えです。大事なのは、政府や東京電力の都合や、科学的な説明だけでなく、漁協や諸外国のような複数のステークホルダーから見ても正当性があるプロセスを踏むことです。

ちなみに諸外国ってどことどこですか?何言っても納得してくれない相手(ステークホルダー)に対してどう対応すればよいか教えて下さい。

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