富永健一・徳安彰編著(2004)『パーソンズ・ルネッサンスへの招待——タルコット・パーソンズ生誕百年を記念して』勁草書房

ルネサンスではなく「ルネッサンス」という、レトロな響きがいいですねえ😅

富永健一・徳安彰「編者序言」i-viii

「生物学は、社会学者になる前のパーソンズにとって関心の対象であり、このことが『行為理論と人間の条件』の中で『自然』を社会システム理論に取り入れる前提をなした」iii

「関心の対象」どころか、もともとの専攻ですよね

盛山和夫「公共哲学としてのパーソンズ社会学」3-16頁

「パーソンズの…近代主義的な緩やかな公共哲学は1960年代後半の進化論的枠組みの明示的な採用においてアメリカ社会の解釈学と結びついてくる」8頁

棚瀬孝雄「機能分析と行為分析——法システムから見たパーソンズ」17-33頁

フォロー

「共有価値を頂点において、底辺の社会的行為を統制していくという社会のイメージは一貫していて、それは、後期パーソンズにおいて、生物学の遺伝情報から示唆を得たと思われる、情報によるエネルギー制御という考え方にも引き継がれている」22頁

佐藤成基「多元主義と『シヴィック・ネーション』——パーソンズ社会学における国民統合とエスニシティ」35-47頁

「後期パーソンズの『社会進化』論の枠組みの中で、ネーションの発生は、『社会共同体』の『政体』からの『分化differentiation』として位置づけられている。歴史的にいうなら、ネーションは、イギリス、フランス、アメリカにおける『民主革命』を契機にして発生したものである。
…パーソンズによれば、エスニックなネーションは、近代の『進化』したネーションの形体[ママ]ではありえない…
…アメリカ国民社会は、『自由と平等』というシチズンシップの原理を制度化した上で、エスニシティや宗教の同質性に依拠することなく、多様な宗教的、エスニック的背景をもった人々を受け入れ、多元主義的な国民社会を実現してきた。それは、より『進化』した『シヴィック・ネーション』の形態であるとパーソンズは考えた。…
…パーソンズにとって、アメリカ合衆国における『ネーション』の発展は、多元主義的なシヴィック・ネーションの方向へと発展していったという点において、『ネーション』の進化そのものの前衛的位置をしめるものであり、その意味で単にアメリカ一国の事例にはとどまらない、『普遍史的』な意味を持つものなのである」36-7頁

島薗進「『宗教の進化』を論じうるか——パーソンズ宗教論の限界」103-18頁

「宗教進化論は19世紀後半に理論的な形をとり、その後、多くの批判を受けながらも現在に至るまで、一定の影響力を保ち続けている。パーソンズが素朴な初期の実証主義者と位置づけたエドワード・タイラーやハーバート・スペンサーの宗教進化論の枠組みは、その後も長く影響を維持し続ける。この種の宗教進化論として代表的なものであるオランダの宗教学者C・P・ティーレの宗教進化論…は、ドイツではマックス・ヴェーバーの『宗教社会学』…に、日本では加藤玄智の『宗教学』…に大きな影響を及ぼし、その後も影響を保ち続ける。…
 ヴェーバーの場合、この素朴な進化論の側面は、ジェイムズ・フレイザーの『金枝篇』…以来の呪術と宗教を対置させる図式の受容によって補強された。フレイザーの議論では、人間が世界を支配しようとする呪術に対して、超越者に運命を委ねようとする宗教が対置されていた。呪術の無効に気づくに従って、人類は一方で科学合理的な知識へと進歩してゆくとともに、他方で自己の力の限界を悟って、神に委ねる宗教的崇敬心へと向かうものととらえられていた」103頁→

(承前)「脱呪術化(魔術からの解放)を歴史の主要な動因とする見方は、ヴェーバー社会学の核心に位置しているが、フレイザー的な進化図式と合致している。脱呪術化を宗教の理論として見た場合、呪術から宗教へという展望を基礎とした進化論的図式としてとらえることができるのであり、ヴェーバーの宗教社会学をこの図式に基づく宗教進化論として受けとめることが可能である。パーソンズからロバート・ベラーへと展開する宗教社会学の系譜では、このようなヴェーバーの宗教進化論を介して、素朴な宗教進化論が形をかえて保存されている。
 呪術と宗教を進化論的に対置する見方に対しては、すでにデュルケームやマリノフスキーによって異議が唱えられていた。人類は早くから合理的な思考によってコントロールできる領域を知っており、それを超えた領域について宗教や呪術に向かっていた。…しかも両者は截然と区別ができない。むしろ『呪術=宗教的』(magico-religious)とよぶべき領域として考えた方がよい。デュルケームやマノフスキー[ママ😅]の機能主義の系譜を引き、西洋文化の相対化を押し進めた文化人類学的な宗教論においては、このように『宗教の進化』に対して懐疑的な見方が広まっていった」103-4頁→

(承前)「パーソンズの社会理論は、デュルケームやマリノフスキーの機能主義を素朴な実証主義を超えた段階のものとして高く評価しているが、宗教進化論の見直しという点では、彼らが切り開いた道をさらに推し進めようとはしなかった…むしろ、ヴェーバーの留保を越えて、合理主義的・個人主義的な西洋近代を帰着点とする進化論の方向へと論を進めがちだった。この傾向は、パーソンズの弟子筋の理論家たちにも引き継がれていく」104頁

「1970年代以降のベラーは、儀礼や身体性や共同性に多くの関心を注ぐ。合理性の限界の向こうに儀礼や『心の習慣』や『記憶の共同体』を見出し、そこに過剰な個人主義の歯止めになるものを見ようとした。メアリー・ダグラスのようなカトリックの信仰をもつ社会人類学者による儀礼の重要性の指摘…に共鳴し、長老派出身の典型的なプロテスタントから聖公会に転向したのはそのような過程においてだった。
 では、この近代主義から『悔い改めた』ベラーにおいて、宗教進化論はどのように修正されるのだろうか。近年のベラーはサミュエル・アイゼンシュタットの研究などを参照しつつ…『軸の時代の文明』の理論に関心を寄せているようだ。『軸の時代』はヴェーバーと親しかったカール・ヤスパースが『歴史の起源と目標』…で展開したものである…『軸の時代』論は人類史を画する高度の精神文明についての理論であるが、また『帝国の精神』の理論でもあろう」108頁

この「軸の時代(the Axial Age)」論が、ピーター・ターチンに引き継がれてゆくわけです!!

「ギアツもまたパーソンズの薫陶を受けた文化人類学者であり…解釈学的人類学を唱導したギアーツ[ママ]であるが、その『文化』や『宗教』についての考え方は、パーソンズに由来する『社会を統合する意味の体系としての文化』という観念が基礎になっていると考えられる」109頁

「個人が究極的な関心(テリック・システム)を反映する価値合理的な意味体系に出会い、それを受け入れることをもって純粋な『宗教』受容と理解し、ますます合理的で『分化』した『宗教』へと向かっていくと見る。そしてそれを宗教進化の到達点と見る。こうした見方は現実のプロテスタントの実情に合致してさえいない。現代のプロテスタンティズムはますます非合理主義の傾向を強め、また特定の宗教的価値の公的具体化を追求している」110頁

島薗さん手厳しひ😅

「近代化によって宗教がこの世の生活を重視し、『世俗化』をもたらすという事態の意味を、人間が自らの知性により物理的環境、有機的環境の制御を増していく過程として理解する進歩主義的な立場をパーソンズは捨てていない。環境制御こそ社会的な進化の基軸をなすものと理解されている。そして、そのような制御の増大をもっとも高次のシステム次元で担っているのが、プロテスタントであるという。つまり、合理化がもっとも高度になしとげられた宗教が、進化の極点にあると考えられている。ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』から、ペシミスティックなトーンを払拭した未来志向の明るい進化主義がパーソンズの基本的な歴史観である」113頁

「人魚姫」から「リトル・マーメイド」へ、的な😅

三上剛史「ハーバーマスのパーソンズ受容と規範の更新——現代社会学の規範主義的理論構成」189-201頁

「パーソンズにおいては『ヴェーバーの価値実現の考え方とサイバネティックスから借りてきた境界維持システムの概念とのアンビヴァレントな結びつきがある』」[ハーバーマス評]192-3頁

挟本佳代「パーソンズと20世紀の科学」215-23頁

パーソンズ「生物学理論における[タイムスパンの]区別とは、生物システム諸側面のうち、種の一員である生物有機体の<遺伝子>構造の中に具体化される部分と、個々の有機体を特徴づける部分との区別である。ひとつの定式化としては生殖細胞質と体細胞原形質との区別があり、別の定式化としては遺伝子型と表現型の区別、また系統発生と個体発生の区別がある。
 われわれが行動有機体と呼んできたものは、行為システムと呼ばれるものの本質的構成要素である。だから、あらゆる有機体を理解するための基盤でもある先の二分法は、行為の中で役割を果たす人間有機体にも適用される、と想定するのは妥当であると思われる。もしこれが真実であるならば、これに密接に関連する二分法を、人間の行為システムの有機的側面から別の諸側面へと拡大適用してはならない理由がどこにあるだろうか」217頁

パーソンズ「デュルケームは、社会とは『独自のsui generisリアリティ』であると激しく主張した。デュルケームのいう社会は、当時通用していた『生物学的』という語の意味における有機体ではなかった。しかしその後、生物学理論は重大な変化の過程を経験してきた。その結果、驚くべきことに多くの点で、有機体のはたらきに関する理解と同質のものになってきている。少なくとも目下のところでは、この変化の頂点はDNA概念をともなう新しい遺伝学の発展にあった」217頁

「パーソンズはスペンサーの社会観が主に3つの基本的かつ理論的な考え方に特徴づけられていたと考察した。その3つとは『自己制御システムとしての社会』、『機能分化』、『進化』である…特に『進化』を通し、スペンサーは社会科学と自然科学に直接的かつ理論的な架橋を行ったとパーソンズは考察している。パーソンズはスペンサーの進化の考え方を、生物学的進化論の拡大解釈から生まれたものであると理解していた」219頁

パーソンズ「わたしは有機体レベルと社会ー文化的レベルの[進化の]連続性を含む、あらゆる種類の生体システムの進化的発展の基本的な連続性を強く確信した。…生物学的レベルと社会ー文化的レベル[の進化]に関するとりわけ重要な点が直ちに展開される。それは、有機体世界における遺伝子構造の役割と、人間の行為システム世界における文化システムの役割との『アナロジー』もしくは機能的類似性である。…
…近代という社会類型が『ひとつの』進化の起源をもつという洞察は、『論争』の余地のないものであると考える。このことは、人間という種の起源がひとつであり、同時に人間の文化、社会、パーソナリティの起源もひとつであるということに匹敵するきわめて重要な事実である」221-2頁

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