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読書備忘録『境界なき土地』 

*水声社(2013)
*ホセ・ドノソ(著)
*寺尾隆吉(訳)
葡萄畑の所有者に支配された寒村を舞台とする、異常者たちの無頼と哀愁の物語。それはグロテスク故に滑稽であり、滑稽故に悲愴な群像劇である。都市近郊の小さな村は電気も通らないまま衰退の一途を辿り、娼館に務めるマヌエラというオカマのダンサーを始め、娘である娼婦も、借金返済に追われる荒くれ者も、破滅を予感して憂愁に駆られている。支配者も例外ではない。遅かれ早かれ滅びる運命にある村は閉塞感に包まれており、人々に狂態を演じさせるのだ。ここでは地の文に内的独白を次々に混ぜていくドノソの文体が効果的に生きていて、人々の暗澹とした心象風景が鮮烈に描きだされていく。そして、ドノソの文体はマヌエラの内面に言及することになる。女の身体を嫌悪するとともに娘に「パパ」と呼ばれることを拒絶するマヌエラの感覚、そして父親としての役割を放棄する生き方は倒錯的で規範を逸脱したものに映るかも知れない。しかし、娼館のオカマと蔑まれるマヌエラの嘆きは、閉鎖的な村に築きあげられたヒエラルキーに握り潰された、マイノリティの悲痛な叫びでもあるのだ。

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