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読書備忘録『狭き門』 

*新潮文庫(1954)
*アンドレ・ジッド(著)
*山内義雄(訳)
もはや説明不要の世界的名作。幼い頃から愛し合っていたジェロームとアリサ。ところが愛の成就に究竟を見出しているジェロームとは違い、神の境地に憧れるアリサは彼を愛しながらも受け入れようとしない。アリサは何故彼の愛を拒むのか。ジェロームの独白である物語は、アリサの不可解な、理不尽な言動に寄り添いながら空虚な時間を刻んでいく。アリサの強固な意志を形成するものは地上から離れた世界にあり、誰も彼女を地上にとどめることはできないのだ。狭き門とは救済の道を説くイエス・キリストの言葉に由来していて、まさにアリサが選択した苦難の道を意味する。一世紀前のフランスで、しかもキリスト教に対する批判精神を暗示する内容だけに、キリスト教徒ではない淡白な現代日本人である私にアリサの気持ちを理解するのは難しい。共感することはなく、信仰とは何なのだろうという素朴な疑問を覚えた。とはいえ共感は評価の指針にはならないし、実際に相容れない理想を抱いているが故に結ばれることのない二人に痛切な哀感を抱き、その悲恋に浸ったのは紛れもない事実だ。

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