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読書備忘録『飢餓同盟』 

*新潮文庫(2006)
*安部公房(著)
安部公房の小説は非常に凝縮されている。前衛芸術家としての奇抜な発想と構成の賜物なのはわかるものの、具体的にその奇抜さを説明するのは案外難しい。理想郷を実現するため誕生した「飢餓同盟」の顛末を物語る本作品も例外ではない。飢餓同盟は尻尾の生えている花井の発案で結成された秘密結社で、工場の主任である花井を盟主に、紙芝居屋の矢根、診療所長の森といった人物たちをメンバーにしている。もっとも花井は工場主に怨恨を抱いており、矢根は宣伝部員に採用されたのに子供相手に紙芝居をやらされており、森は診療所に転勤するも有力者が診療所設置に反対したため飼い殺し状態である。この中に絶望のあまり帰省して自殺をはかる織木も混ざり同盟は混沌としていく。けれども付け焼き刃の同盟の行く末が順風満帆であるはずもなく、彼らは約束されたも同然の結末に向かって突き進むのであった。革命思想と狂気を境界線で揺さぶる表現力は見事の一言。町の政治経済を司る支配者が権勢を振るい、支配者の下で秩序が生まれていき、秩序に溶け込めない人間が孤立する。飢餓同盟とは孤立者の集団なのだ。

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