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読書備忘録『モナリザの微笑 ハクスレー傑作選』 

*講談社文芸文庫(2019)
*オルダス・ハクスレー(著)
*行方昭夫(訳)
二〇世紀前半のイギリス文学を牽引した文豪の短編小説集。収録作は五編。恋愛遊戯に耽る有閑知識人が鮮烈な竹篦返しを受ける『モナリザの微笑』、類まれな才能の持ち主である美少年がその才能故に悲劇を迎える『天才児』、高価な壁画を所有するイタリア人伯爵家の裏舞台に迫る『小さなメキシコ帽』、吃音症の青年が理想と現実との非情なまでのギャップに煩悶する『半休日』、文芸批評家が死去した財界人との交流を辛辣に振り返る『チョードロン』。二〇世紀前半のイギリス及びイタリアにおける気質を根幹として、文学・音楽・絵画などの芸術全般を取り入れている点は全作品に通じる。イギリス人批評家の視点で描きだされる伯爵家の壁画は絢爛豪華であり、皮肉屋の文芸批評家による財界人批評は引用を連ねた複雑なコラージュである。また音楽と数学の密接な関係を、数学者の卵の表現法に用いるところにも妙味がある。ハクスレーの小説においては如何なる文化人も滑稽な面を隠せないし、きらびやかな装飾品を並べても内面の汚さはごまかせない。

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