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読書備忘録『夜のガスパール』 

*岩波文庫(1991)
*アロイジウス・ベルトラン(著)
*及川茂(訳)
一九世紀の西洋文学界で流行していたロマン主義と韻文詩に背を向け、散文詩という新たな分野を開拓したアロイジウス・ベルトラン(ルイ・ベルトラン)の散文詩集で、後世に多大な影響を与えたことから知名度は高い。とはいえ時代を先取りする技法の宿命か、三四歳の若さで死去するまで彼の前衛的な試みが評価されることはなかった。構成を見ると、序文、献辞、詩、断章と細かくわかれていて、その出版過程を見るとなかなか複雑。全体的に叙情性より怪奇と幻想を匂わせているところが特徴であり、中でも第三の書「夜とその魅惑」では何度もあやしげな情景が描きだされている。ここには「オンディーヌ」「スカルボ」といった詩も含まれているので、ラヴェルの音楽が好きな人なら反応を示されるのではないか。かくいう私もラヴェルの楽曲で『夜のガスパール』を知った一人なのだ。もっとも「スカルボ」は断章におさめてある方だし、悪夢を見ている心地にさせされる「絞首台」も断章である。もしかすると断章に『夜のガスパール』の真髄を見出す人は多いのかも知れない。

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