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読書備忘録『吐き気』 

*水声社(2020)
*オラシオ・カステジャーノス・モヤ(著)
*浜田和範(訳)
いエルサルバドルに現れた異端児の初期短編小説集。ここでは表題作『吐き気――サンサルバドルのトーマス・ベルンハルト』に絞らせていただきたい。本作品は母親の通夜に出席するためエルサルバドルに帰国したベガという男の独白で、祖国に対する幻滅を罵詈雑言で表現する問題作である。その言葉が凄い。エルサルバドルを憎悪するベガは、同国のすべてを否定する。飛行機で会った夫婦、居酒屋のビール、ププサ、売春宿の娼婦。何よりベガを苛立たせたのは弟の存在だった。価値観がまるで違う弟には反感しか抱かず、弟の家族にも、家族が愛好するものにも、弟の散歩に付き合わされているときに見聞きするあらゆるものに「吐き気」を覚える。バリエーションが豊富すぎる痛罵の数々。しかも改行がない。オーストリアの文豪トーマス・ベルンハルトの技法を模した文体で描きだされた幻滅と罵倒は、エルサルバドル中の読者を動揺させることになり、著者宛てに殺害予告が出るほどの騒動に発展。今は緩和されたようだが、これからも賛否両論の問題作であり続けるだろう。

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