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読書備忘録『美しい星』 

*新潮文庫(2003)
*三島由紀夫(著)
飯能市の旧家である大杉家は、飛行する円盤を見て異星人として覚醒した一家だった。水素爆弾の開発により現実味を帯びた人類滅亡を危惧した重一郎は、故郷との交信を試みる傍ら三流雑誌の通信欄に同志を求める広告をだし、宇宙人であることを隠しながら「宇宙友朋会」を結成。また「世界平和達成講演会」を開催するなど活動範囲を広げていく。ところが白鳥座六十一番星あたりの未知の惑星から飛来した、核兵器による人類の安楽死を唱える集団は重一郎の平和運動を快く思わず計画阻止に動きだす。おおまかな流れは前述の通り。異色作と呼ばれる理由はSF的設定と荒唐無稽なストーリーにある。けれども本作品の特色はSFの発想を借りる程度でとどめ、核兵器問題や倫理的問題を地球外から客観視するという実験を試みている点である。つまり『美しい星』はSFの束縛を受けず、既存の純文学の束縛も受けず、自由奔放な発想を叩き込むことに成功した貴重な例なのだ。こうした実験は現代でも冒険なのに、半世紀以上前の日本で実行するのだから三島由紀夫の度胸と先見性は見事としかいいようがない。

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