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読書備忘録『秋』 

*新潮クレスト・ブックス(2020)
*アリ・スミス(著)
*木原善彦(訳)
イギリスの欧州連合離脱を決める国民投票がおこなわれ、世界中が衝撃的な結果を目のあたりにしたのは記憶に新しい。アリ・スミス氏はその歴史的変動に即座に創作活動で応えた一人だ。スミス氏の「季節四部作」の秋を飾る本作品の舞台は、国民投票がおこなわれた二〇一六年のイギリス。元作詞家の老人ダニエルと変わりものの女性エリサベスの奇妙な、それでいて温かみのある交流を根幹とする、哀愁と郷愁をにじませる小説である。二〇一六年現在、一〇一歳のダニエルは養護老人ホームで眠り続けており、エリサベスは大学非常勤講師として生活している。見舞いに訪れる彼女をダニエルは眠りながらも出迎える。彼の寝姿は年老いても一緒に散歩したり哲学的な話をしていた頃の面影を残しているのだ。こうして物語は二人の共有された意識を体現するように、過去から現在までのエピソードの束を断章的に描きだしていく。その構成はエリサベスの研究対象であるポップアーティストのポーリーン・ボティのコラージュ技法を連想させるものがあり、主題と形式の結合を見ることもできる。

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