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読書備忘録『絹と明察』 

*新潮文庫(1987)
*三島由紀夫
近江絹糸紡績における労働争議をモデルに、旧態依然とした経営法で業績を伸ばしてきた紡績会社社長の栄枯盛衰を描き、日本古来の精神と父性の問題に言及した名作。紡績会社を営む駒沢善次郎は日本的家族を旨として、社長である自分を「父」、従業員を「子」に見立てる家父長経営に終始していた。駒沢の古臭いスタイルはアメリカ流の経営学を取り入れている同業者の失笑を買いながらも、その成長ぶりに危機感を覚えさせることにもなり、経営破綻を画策する動きが出始める。そこで抜擢されたのは政財界に通ずる岡野という人物。岡野は知り合いの芸者菊乃を諜報員として工場に送り込み、血気盛んな若者大槻を扇動するなど、駒沢紡績に不満を抱く従業員に反逆のきっかけを与えていく。この小説は複数の対立を骨子にしている。そこには父と子があり、経営者と労働者があり、欧米の近代主義と日本の精神風土がある。駒沢善次郎という哀れな道化によって構築される対立構造。日本主義を表す「絹」と、輸入された合理的思想である「明察」を追究することは、本作品における対立構造を理解する上で要となるに違いない。

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