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読書備忘録『ただ影だけ』 

*水声社(2013)
*セルヒオ・ラミレス(著)
*寺尾隆吉(訳)
ニカラグアを支配してきたソモサ政権と、サンディニスタ民族解放戦線の激突を主題とする長編小説。セルヒオ・ラミレス自身反ソモサ派の筆頭としてサンディニスタ民族解放戦線を支援した後、副大統領を務めた経歴の持ち主だけあって、革命の背景に切り込む筆致は鋭利である。それでいて説教臭いわけではなく、写実的な物語という認識を与えておきながら、史実の合間に虚構を織り交ぜることで読者を混乱させるといった、小憎らしい演出を凝らすことで物語性を強めたりもしている。また、私設秘書官アリリオ・マルティニカも虚実の境界線に砂をかける要素としてあげられる。物語は彼に関する尋問・証言・調書といった複眼的な文章で構成されており、作中にはアリリオ・マルティニカの元妻ロレナ・ロペスの作者宛書簡に一章を費やすところもある。この架空人物の元妻と著者自身の対話という奇妙な章のおかげで、見事に術中にはまってしまった。こうした現実と架空の倒錯現象は当然意図的になされており、フィクションに対する作家セルヒオ・ラミレスの信念を読み取ることができる。

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