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読書備忘録『完全な真空』 

*河出文庫(2020)
*スタニスワフ・レム(著)
*沼野充義 他(訳)
SF文学界の重鎮が送りだした実験小説。本作品は架空の書物を論じた書評集だ。架空の書評自体はボルヘスやラブレーを始めとする先駆者がいるのでスタニスワフ・レムの発明ではないと冒頭で語られているが、この冒頭も『完全な真空』の書評として書かれている点には充分留意しなければならない。とりあげられている書物は一六を数える。前半部の『ロビンソン物語』『ギガメシュ』などに見られる風刺的な論評、それから小説の草案に言及する『親衛隊少将ルイ十六世』『白痴』などを経て、ノーベル賞受賞者アルフレッド・テスタ教授の講演を書き起こした『新しい宇宙創造説』に至る。各作品と各作者に言及する語り口はそれぞれ独創的な癖を覗かせており、複数の書評家を想像させる作りになっている点もフィクションに対する批評性を高める要因になっている。メタフィクションの一言で語り切れるものではないが、メタフィクションの基本であるフィクションにおける自己言及という条件を支柱とする本作品は、メタフィクションの極北にあるといえるのではないだろうか。

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