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読書備忘録『西瓜糖の日々』 

*河出文庫(2004)
*リチャード・ブローティガン(著)
*藤本和子(訳)
詩人にして小説家であるリチャード・ブローティガン。このビートニク思想を継承するヒッピー文化の象徴でありながら、流行の終焉とともに存在感を喪失した表現者は、ある意味では時流の犠牲者だったのかも知れない。本作品は不思議な空間を舞台としており、アイデスと呼ばれる共同体の地と、忘れられた世界と呼ばれる場所が共存している。小屋や橋は西瓜糖で作られていて、西瓜鱒油でランタンに火を灯す。人々は単調ながら平穏な日常を営んでいる。あるとき、主人公は知人の勧めで一七一年間で二四冊目である本の執筆に着手することになるが、本作品はその記述内容である。西瓜工場、野球公園、送水管、鱒の孵化場。断章形式で淡々と描きだされる風景はお伽噺に出そうな奇妙なものばかりで、どこか死後の世界を連想させる。特にマーガレットという女が足繁く通う「忘れられた世界」は生死の境界線を現しているようであり、その入口に居座るインボイルを筆頭とする荒れくれ者たちは門番のようである。

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