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読書備忘録『世界の果ての庭』 

*惑星と口笛ブックス(2020)
*西崎憲(著)
実は複数人の集合体ではないか。西崎憲という人は、そんな突飛な考えを起こさせるマルチクリエイターだ。小説家、翻訳家、歌人、作曲家、電子書籍専門出版社の主宰者、日本翻訳大賞の創設者。文学ムックの編集長。肩書きをあげるだけで目眩を覚える。その小説家としての出発点でもある『世界の果ての庭』は、小説家リコと近世日本文学研究者スマイスの交流から始まり、イギリスの庭園、国学者の事跡、江戸の辻斬り、異世界を放浪する旧陸軍脱走兵、若返っていく病気の母親といったテーマを掲げる断章を不規則的に展開させる物語で、関連性を仄めかしながらも独立した不可思議な構成に魅せられる。熟読するとリコに各断章の起点を認めることもできるが、随所にヒントを散りばめた複雑怪奇な構造なので、本腰を入れて分析するなら紙と鉛筆を用意するなり、オフィススイートを起動する方がよい。しかし、断章同士の繋がりを明確にする必要はないと思う。丹念に書きわけられた筆致はそれ自体に情趣があり、終焉を迎えていく物語の欠片を素直に見送ることも、本作品を堪能する重要な読み方だろう。

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