フォロー

読書備忘録『中国怪談集』 

*河出文庫(2019)
*陶宗儀 他(著)
*松枝茂夫 他(訳)
複雑な感想を抱いている。この項では辛辣な指摘をするので、ご容赦いただきたい。まず『中国怪談集』は中国の怪談集ではないと注記する。簡単にいうと、怪談らしい怪談を収録するのではなくて、ゴーストという概念を幻影・仮像まで拡大することで近現代中国文学史の佳品を集めている。その結果、季漁の艶笑譚『十巹楼』、魯迅の名短編小説『阿Q正伝』、集団自殺を企てる思春期の娘たちを描いた葉蔚林の『五人の娘と一本の縄』といった刮目に値する秀作が続き、六四天安門事件に関する中国共産党北京市委員会宣伝部による『人民日報』の記事で締め括られるバラエティ豊かな作品集になっている。しかし怪談とは異なるし、そもそも編者自身怖い話をおさめる気はなかったようだ。編者の主張もわからなくはない。ただ、怪談集を名乗りながら意識的に怪談を収録しないのは企画として破綻しているのではないか。中国文学のアンソロジーとしては秀逸だが、中国の怪談集としては褒められたものではないので、興味を覚えている方々は編者の失敗を念頭に置いた上で手に取る方がよいだろう。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。