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読書備忘録『時との戦い』 

*水声社(2019)
*アレホ・カルペンティエル(著)
*鼓直(訳)
 寺尾隆吉(訳)
アレホ・カルペンティエル最後の短編小説集『短編全集』の全訳版。全訳を強調したのは全七編である『短編全集』の翻訳が複雑な過程を経ているため。なにぶん部分的な翻訳が続いたことに加え、時代を経て未訳と既訳本の絶版がかさなったという気の毒な本なのだ。結局、全作品訳出した一冊の本が出版されるまで半世紀近くかかった。お疲れさまとしかいえない。おかげでカルペンティエルとしてはめずらしい短編小説に耽溺することができた。各作品にしかけられた時間操作は如何にもカルペンティエルらしく、時間を巧みに跳躍させた『聖ヤコブの道』の技巧的面白味などはまさにお家芸である。カルペンティエルの時間操作は難解ではあるが、その仕組みを解き明かしたときの喜びは大きい。進行してきた時間を遡るのではなく、過去に進行することで歴史を重層化させる。こうした複雑な時間構成、端的にいうなら「歴史は繰り返す」という現象をフィクショナルに表現する手法はラテンアメリカ文学に散見されるものだが、その中でもカルペンティエルは徹底している。

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