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読書備忘録『青い脂』 

*河出文庫(2019)
*ウラジーミル・ソローキン(著)
*望月哲男(訳)
 松下隆志(訳)
現代ロシア文学のモンスター、ウラジーミル・ソローキン氏の最高傑作にあげる声も多いポストモダニズムの傑作。生来の文学的資質に加え、前衛芸術の世界で培われた彼の創作意欲は二〇六八年と一九五四年のロシアで巻き起こる騒動を、複雑怪奇な設定と卓越した言語表現で書きあげた。概要の時点で前衛的である。研究所「遺伝子研18」で「青脂」を製造するロシア文学の文豪のクローンたち。複数回にわたり製造過程を手紙に書いて知人に送り付ける言語促進学者の奇妙な言語。ロシア語、中国語、英語、ドイツ語、フランス語を混交した翻訳者泣かせの実験的文体は、幾つもの造語を含む特異な書簡体小説の体をなしている。また、合間合間に挿入されるクローンのテクストも見事。クローンの完成度が中途半端でテクストはしばしば破綻するのだが、基礎となる文体は再現されているので、まるで実際の文豪が書き損じたような錯覚を覚えてしまう。一作品の中に複数の文体を、それも完璧なかたちで構築するのだから、ソローキン氏の手腕には脱帽するほかない。

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