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読書備忘録『孤児』 

*水声社(2013)
*フアン・ホセ・サエール(著)
*寺尾隆吉(訳)
港育ちの孤児であり、インディアス探検船団の見習い水夫として現地調査に協力。ところが原住民の襲撃に遭い、自分以外の上陸部隊員を皆殺しにされた後、何故か自分だけは殺されずに集落で共同生活を始めることになった「私」の回想録。それが『孤児』のおおまかな体裁である。手記形式なのは老境に入った「私」自身の告白で明らかにされていて、船員との交流、原住民との生活は回顧ならではの冷静な筆致で綴られていく。また随時現在の立場から言及するので、言葉の通じない土地に取り残されていても場面には不思議な落ち着きがある。同時に淡々とした語り口故、原住民に継承される食人の習慣は読み手に鮮烈な印象を与える。けれども本作品のテーマは原住民の言動を通し、共同体の構造を考察するところにある。資料を漁るサエールが見付けたフランシスコ・デル・プエルトに関する記述。現地調査中に原住民に襲われて、一〇年以上集落で生活した見習い水夫の逸話。この見習い水夫の体験に刺激されたことで生まれた『孤児』は、未知の世界で営まれる文化を探る哲学的な小説である。

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