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読書備忘録『別れ』 

*水声社(2013)
*フアン・カルロス・オネッティ(著)
*寺尾隆吉(訳)
本書はフアン・カルロス・オネッティの短編小説集である。表題作は短編小説としては長めなので、中編小説と短編小説を収録した作品集という方が正確だろうか。表題作『別れ』では、病気療養と称して田舎町に滞在する男の動向が飲食系の店を経営する主人の視点で語られる。男と関わりのある年配の女、男とおなじ家に泊まる若い娘、唐突に現れた二人の存在が病身の男を不気味に染めていき、やがて大きな事件を引き起こすことになる。ここでは小説技法「意識の流れ」が巧みに使われており、結末に用意されている重要な事実は、的確に読者の虚を突いてくる。こうした魔術的な文章表現はオネッティの特徴でもある。盟友ルイス・バッジェから聞かされた実話を競馬欄担当の新聞記者に迫る前妻の復讐譚に換えた『この恐ろしい地獄』然り、死者との結婚を信じてウェディングドレスすがたで徘徊する狂女を語る『失われた花嫁』然り、恐怖も悲哀も幻想的な文体を用いることで、物語全体を柔らかなヴェールで包み込むのである。

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