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読書備忘録『帝都最後の恋』 

*松籟社(2009)
*ミロラド・パヴィチ(著)
*三谷恵子(訳)
ミロラド・パヴィチは現代セルビア文学を代表する小説家で、翻訳家であり文学史研究家でもあった。創意工夫された小説は既成概念を覆す構造をしていて、読者はこれまで体験してこなかった読み方を試すことになる。事典形式の小説『ハザール事典』然り、二つの物語が両面から進んでいく『風の裏側』然り、パヴィチ作品は常に読み手の想像を超えていく。いうまでもなく『帝都最後の恋―占いのための手引き書―』も特殊な細工がなされている。物語はナポレオン戦争時代に活躍するセルビア人家族の運命を追ったもので、二二の章で幻想的なスペクタクルが展開される。同時にこの二二の章は大アルカナと呼ばれる二二枚一組のカードに対応していて、巻末に付いているタロットカードで占いながら読むこともできる。つまりタロット占いの結果とおなじ名の章を読むと、その秘密が明かされる仕組みになっているのだ。発想の時点で飛び抜けている。これがパヴィチ作品の特徴で、まるでおもちゃを本来の用途とは異なる方法で用い、独自の遊びを開発するような柔軟性を見せるのである。

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