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読書備忘録『独裁者ティラノ・バンデラス 灼熱の地の小説』 

*幻戯書房(2020)
*バリェ=インクラン(著)
*大楠栄三(訳)
ラテンアメリカ文学ブームをささえた分野に独裁者小説がある。その中、三大独裁者小説の一作品を手がけたロア=バストスが着想を得た作品こそ『独裁者ティラノ・バンデラス』だった。舞台は架空の国サンタ・フェ・デ・ティエラ・フィルメ共和国。将軍サントス・バンデラス率いる共和国政府と革命派の衝突を描いており、バリェ=インクランが独自に開発した小説技法「エスペルペント」を活用することで、壮大な革命物語なのに滑稽味を帯びた喜劇が展開される。この手法は凹面鏡に映して体系的に歪めるという意味を持ち、例えば登場人物を極端にデフォルメすることで、悲劇であるが故に滑稽に見えるという逆転現象を生じさせるのである。そこに投影される映像はグロテスクであり、同時に圧制者のおかしさを暴露する逆説的な効果も現れる。全七部ながら時間通りに進むわけではなく、第一部と第七部、第二部と第六部という具合に第四部を折り目に連結する幾何学的な構成も相まって、作品の全貌を把握することにもゲームのような面白さを感じる。

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