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読書備忘録『気まぐれニンフ』 

*水声社(2019)
*ギジェルモ・カブレラ・インファンテ(著)
*山辺弦(訳)
キューバのギジェルモ・カブレラ・インファンテはカストロ革命政府に反発して亡命を余儀なくされ、イギリスを拠点に執筆活動を継続した作家だ。その深い望郷の念は小説のテーマに組み込まれており、革命前のハバナで出会った不思議な少女との夏を回想する『気まぐれニンフ』も愛郷を土台としている。映画批評を書いて生計を立てている既婚者Gと、母親を憎悪する少女エステラ。海辺で見たエステラに一目惚れしたGは持ち前の口達者ぶりで誘い、やがて二人は家族を捨てて逃避行を始める。粗筋そのものは王道的なロマンスの流れを汲んでいる。けれども本作品最大の特徴は語りの手法である。複数の言語を絡めた言葉遊び、語り手と語られている人物の語りを交錯させる文体、さまざまな作品からの引用。こうしたユーモアに富む文学的・言語的遊戯は著者の得意技であり、邦訳にあたってはある程度翻訳者独自の超訳を施さなければ、翻訳が叶わないほど突出している。言葉の曲芸師たるカブレラ・インファンテの著作を日本語で読めることに感謝するばかりだ。

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