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読書備忘録『七つのからっぽな家』 

*河出書房新社(2019)
*サマンタ・シュウェブリン(著)
*見田悠子(訳)
著者はブエノスアイレス生まれの作家で、大学生の頃から文学活動を始めている。今では世界的注目を集める現代アルゼンチン文学の寵児といえる存在である。二〇一五年に発表された『七つのからっぽな家』は三〇箇国以上で翻訳されている短編小説集。ここにおさめられた七編では奇妙な人間模様が描かれている。どの物語でもコミュニケーションの齟齬が強調されており、読者によっては恐怖を覚えるかも知れない。象徴的な作品をあげるなら認知症の老婆視点で語られる『空洞の呼吸』だろう。この物語では認識のずれを緊張感のある筆致で表現するとともに、強迫観念に突き動かされる老婆を哀れなかたちで浮き彫りにする。ほかにも母親が他人の家を掻きまわす『そんなんじゃない』、全裸で駆けまわる祖父母に振りまわされる『ぼくの両親とぼくの子どもたち』等々。サマンタ・シュウェブリン氏の小説がホラーに分類されることは間違ってもないと思う。しかし私自身は本書に対して、読書中も読了後も深い恐怖を抱かずにいられなかった。

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