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読書備忘録『無音の海』 

*granat(2019)
*館山緑(著)
純粋故に残酷であり、残酷故に愛らしい。『無音の海』は妖怪伝承の残る離島で繰り広げられる凄惨な恋愛譚である。主人公は夜待島に住んでいる成本旋。彼は大栢島の中学校に通う身で、巳子島に住む従姉と定期船で通学する日々を送っていた。人付き合いには若干消極的で、SNSでも同級生と交流するのではなく、波止場で撮影した写真に一言添えてアップロードするだけである。彼の日常は淡々としたものであった。しかし無人であるはずの波止場で撮影したある写真がきっかけで、平穏無事だった日々は一転して恐怖に染まる。島々に伝わるヨブコという海に出没する妖怪。どこかから流れてくる透き通った女の声。不穏な空気がじわじわと浸透してくる展開に恐れつつも引き込まれる。凄惨な恋愛譚という表現に戸惑う人もいるかも知れないが、恐怖と恋愛は両立するものである。純粋な愛とは非常にデリケートであり、制御できなければ血なまぐさい事態の原因になり兼ねない。館山緑氏の小説を読んでいると、青春期ならではの鋭敏な性質を通して、この紙一重の世界を垣間見ている気持ちになるのだ。

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