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読書備忘録『房思琪の初恋の楽園』 

*白水社(2019)
*林奕含(著)
*泉京鹿(訳)
台湾・高雄の高級マンションで暮らす房思琪と劉怡婷。文学を愛する彼女たちは、姉のような存在である許伊紋を交えて平穏な時間をすごしていた。ところが房思琪は下の階に住む国語教師李国華に目を付けられ、作文を読むという口実で誘い込まれて強姦されてしまう。一方、許伊紋は資産家である夫からのDVに苦しめられていた。三人称と一人称を交錯させる独自の文体で、鮮烈に描きだされる未成年者に対する性的虐待・家庭内暴力は痛ましく、社会的地位のある加害者に事件を隠蔽される理不尽な事態には目を覆いたくなる。しかし、冒頭で述べられる「これは実話をもとにした小説である」という著者の言葉が示す通り、この理不尽な世界はまぎれもない現実なのだ。ここで語られている実話性を著者自身に求めるのは早計だが、社会に蔓延する悪意を小説技法で表現したことは意義深く、高度な技巧と併せて賞賛に値する。それだけに次回作が永遠に生まれないことが悲しい。幼少期から類まれな才能を見せてきた林奕含は本書を出版した二ヶ月後に自殺。二六年という短すぎる生涯を閉じた。

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