*河出文庫(2018)
*ボリス・ヴィアン(著)
*鈴木創士(訳)
報われることも救われることもない復讐の行く末を、蹴り飛ばすような口語文で描きだした飽くなき憎悪の物語。人種差別が横行する中、黒人である弟を抹殺した白人に復讐するため本屋の雇われ店主として町に滞在し、表面的に溶け込もうとするリー。顔見知りになった青少年たちと乱痴気騒ぎをしていると、彼の前に上流階級の美しい白人姉妹が現れる。憤怒と情欲をアルコールに浸したようなリーの激情ぶりはカタルシスを感じるほど胸に響く。ここには黒人差別が蔓延する終戦後の世相に対するボリス・ヴィアンの怒りが間接的に仄めかされているとも解釈できる。そもそも『お前らの墓につばを吐いてやる』はボリス・ヴィアンが架空の作家ヴァーノン・サリヴァン名義で出版したものなので、少なからず一石を投じる意図があったことは想像に難くない。けれども結果的に本作品は「社会道徳行動連合」なる右翼団体に風俗紊乱を理由に告発され、発禁処分と罰金刑に処せられるはめになった。国を問わず時代を問わず、意欲的で挑戦的な作品は叩かれる運命にあるようだ。