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読書備忘録『ポルトガル短篇小説傑作選』 

*現代企画室(2019)
*ジョゼ・ルイス・ペイショット 他(著)
*黒澤直俊 他(訳)
残念ながらポルトガル文学は日本に浸透しているとはいいがたく、現代の重要な作品は未訳のままである。そこでポルトガルを代表する作家たちの作品を翻訳する企画が生まれ、現代企画室より現代ポルトガル文学選集の一冊として刊行されることになった。翻訳事業は困難の連続だったようだが(この辺はアドバイザーを務めたリスボン大学教授のルイ・ズィンク氏を始め、多数の翻訳者と校閲係を交えた訳出の過程を振り返る解説欄に詳細が書かれている)、厳選された一二編の小説はどれも素晴らしかった。民主化革命前後の時代を舞台とした鮮烈なもの、不遇な人生を歩んできた女性が過去をふり返るもの、コミカルでありながら底知れない恐怖を覚えるもの、報われることのない切なき恋のかたちを語るもの。この『ポルトガル短篇小説傑作選』には彩り豊かな物語が織り込まれており、読者を飽きさせることはない。これも編集・翻訳に携わった方々の努力の賜物だろう。現代ポルトガル文学がますます身近な存在になることを願う。

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