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読書備忘録『わたしの物語』 

*松籟社(2012)
*セサル・アイラ(著)
*柳原孝敦(訳)
物語における事象に明確な答えを求める人は混乱するかも知れない。修道女の回想録として始まる『わたしの物語』は少女時代の体験談で構成されているのだが、彼女が語る事柄には常に違和感が付きまとう。ことの発端は序盤のアイスクリーム事件である。父親が買ってくれたアイスクリームを口に含むと、尋常ならざるまずさに少女は嗚咽を漏らす。けれども激高した父親は彼女の主張を受け入れず、無理矢理完食させようとする。癇癪を起こす娘と叱責する父親。構図だけならよくある風景ではある。ただ、圧力をかける父親の風貌が不気味で恐ろしく、溶けだしたアイスクリームが唾液のようで気持ち悪い。意地の張り合いを超えた悪魔との攻防戦を思わせる情景は妙にグロテスクである。果たして実際に奇妙なのか、それとも少女の語りがグロテスクな情景を描いているのか。物語の始めに感じさせられる薄気味悪さは最後まで続く。少女の名前はセサル・アイラ。女性でありながら周囲の人は男性として接しており、語り手に対する疑念は深まるばかり。なお作者のセサル・アイラ氏は男性である。

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