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読書備忘録『神秘列車』 

*白水社(2015)
*甘耀明(著)
*白水紀子(訳)
初めて読んだのは発売間もない頃。ノーベル文学賞作家莫言氏に賞賛されたという話に惹き付けられて購入を決めた。甘耀明氏の作品を読むきっかけは莫言氏の言葉だった。けれども今は他者の意見ではなく、自分自身の意思で甘耀明氏を追いかけている。そうした経緯があるだけにこのオリジナル編集による短編小説集には特別な思い入れがある。政治犯だった祖父が乗った神秘列車を探す鉄道マニアの少年と、国民党による白色テロで離別した祖父と祖母の物語が交錯する『神秘列車』。土地神である伯公を崇めながらも、観光地化にともなうグローバリゼーションを受け入れられない村長の奮闘を描く『伯公、妾を娶る』。物語を愛し、語りすぎることから素麺と揶揄されてきた祖母の遺言に従い、孫が葬儀でさまざまな話を語る『葬儀でのお話』。町に現れたアミ族の二人組を通して、原住民族が住んでいた昔日の森林を想起させる『鹿を殺す』。秀作揃いで甲乙付けがたい。北京語、閩南語、客家語を複雑に絡める彼の文体を翻訳するのは至難の業。それだけに流麗な邦訳を実現された白水紀子氏の功績は大きい。

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