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読書備忘録『エウロペアナ 二〇世紀史概説』 

*白水社(2014)
*パトリク・オウジェドニーク(著)
*阿部賢一(訳)
 篠塚琢(訳)
本作品は歴史小説なのか。そもそも小説なのか。副題に二〇世紀史概説という「反語」を与えられた『エウロペアナ』は特殊な書物なので、概要を説明するだけでも容易ではない。所謂物語の筋らしい筋はなく、ヨーロッパの二〇世紀を象徴する出来事を六六の段落で振り返るのがおおまかな流れ。けれども年代順に語る真似はせず、段落ごとに時代も話題も変えていく。ジェノサイドの犠牲者に言及していたら性科学者によるバービー人形解釈に移り、映画における主人公たちの性交の変遷を語り始める。共産主義者による革命裁判の話をしていたと思えば、いつの間にかランダム・アクセス・メモリの話に変わっている。まるで自由連想するように次々飛躍する。そのため読んでいて「自分は何を読んでいたんだっけ」としばしば当初の話を失念するのだが、主題の転換が巧みなものだから変化に気付かないまま読み続けてしまう。図書館員を務め、翻訳と並行して口語表現、スラング、隠語の辞典を編集したパトリク・オウジェドニーク氏の本領発揮だ。

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