フォロー

読書備忘録『シンコ・エスキーナス街の罠』 

*河出書房新社(2019)
*マリオ・バルガス=リョサ(著)
*田村さと子(訳)
マリオ・バルガス=リョサ氏の小説には隙がない。どの時代でも、どの小説でも緻密な設計図が用意されており、完璧な構造の美しさを見せてきた。その文学的試行を支えるものを断定することは難しい。しかしこれまでのバルガス=リョサ作品を顧みれば、そこには権力に対する類まれな洞察力と飽くなき批判精神を認めることができる。そうした人間観察の成果は政治の世界に現れることもあるし、背徳的な官能の世界に現れることもある。アルベルト・フジモリ政権時のリマのある市街地を暴力・倒錯・欲望・貧困の象徴として、悪辣な国家の陰謀を、富裕層の倒錯した営みをジャーナリスティックに描きだした本作品は、短めの長編小説ながら彼の集大成ともいえる小説だろう。メタな視点で作品を語ることはあまりしたくないのだが、大統領選挙で争った経歴があるだけにアルベルト・フジモリ元大統領の汚点に切り込むテーマが設けられている点にどうしても特別な意味を見出してしまうことをお許しいただきたい。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。