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読書備忘録『パウリーナの思い出に』 

*国書刊行会(2013)
*アドルフォ・ビオイ=カサーレス(著)
*高岡麻衣(訳)
 野村竜仁(訳)
アドルフォ・ビオイ=カサーレスは幻想文学の書き手としてアルゼンチン文学史に大きな足跡を残した。けれども邦訳や復刊は残念ながら旺盛ではないので、本書は短編小説を愛し、得意としていたビオイ=カサーレスを知るのに誂え向きだろう。読み始める前は、円環・無限といった諸概念を膨大な知識の渦で濾過するボルヘス的な作風を予想していた。ところが最初に掲載されている表題作でボルヘスとの相違を見たのであった。ある女性との相思相愛を信じていた青年が本人から別の男性を愛している事実を告げられ、失意のまま奨学金を受けて留学するくだりは正統的な恋愛譚を匂わせるのだが、帰国後にジャンル自体が転換するほどの急展開を見せる。と思えば並行世界を題材とした『大空の陰謀』、犯罪に手を染めて精神的に追い詰められていく夫婦を描いた『墓穴掘り』、死亡した知人の記録に「信頼できない語り手」の技法を盛り込んだ『雪の偽証』等、幻想性を貫きながらも意表を突くプロットを披露するという職人の技を堪能できた。

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