橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
そもそも国連の難民条約において「難民」がどう定義されているのか、世界では難民をどのような方法で受け入れているのか等、これまで正確には知らなかった様々なことが整理され理解できた。
SNSで拡散される、フェイクで溢れかえった「難民受け入れ」の「是非を論じる大前提として、必須の事実と論理の提供を目指す」と冒頭にある。
サブタイトルにある通り、難民受け入れとはその時々での外交政策の利害関係が如実に反映される、人道と国益が複雑に交差する営みであることが明らかになる本であり、諸外国の、そして日本での現在の状況や懸念点についても詳細に説明されていて、めちゃくちゃオススメです。
(冊子の印税は日本のアフガニスタン現地職員の女児の教育資金のために全額寄付)
橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
以下は、読みながらメモした自分の簡単な覚え書きの一部です。
◆「難民」の定義について
国連の難民条約における「難民」の定義の肝は、戦時か平時かを問わず、あくまでも「差別に基づく迫害のおそれがあること」であり、戦争や内戦による無差別暴力から逃れる場合は難民の対象からは外れる。
しかしアフリカと中南米では、国の歴史と政治を反映し、戦争や内戦での武力紛争を逃れた人々を保護するために、難民条約の定義に加えて広い(避)難民の定義を採用している。
またEU諸国では難民条約の定義を維持しつつ、「補完的保護の対象者」として、難民に準ずる別の地位を作り実質的に保護対象の範囲を広めている。
EUでは短期間に大量の避難民が流入した場合の「一時的保護」制度があるが、策定から20年間以上一度も、シリア難民危機ですら使われたことがなかった。
にもかかわらず2022年ロシアのウクライナ侵攻の際は驚異的な速さで発動。しかしウクライナ国籍を持たない人は庇護対象から外されるという、非ヨーロッパ系避難民の排除の上に成り立つ、ウクライナ人限定での寛容さだった。
橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
◆日本の向き合い方
2021年タリバンがアフガニスタン全土を制圧した際、各国がアフガニスタン現地職員とその家族を大規模に自国へと退避させる中で、日本は差別的で非人道的な対応を取り、長年日本に協力した多くのアフガニスタン人を見捨てた。
2022年、ロシアのウクライナ侵攻から一週間も経たずに日本政府は避難民受け入れを発表。
来日希望のウクライナ人は身元保証人無しでパスポートが無くとも無条件に短期滞在査証が発給された。
入国後は就労可能な在留資格、住民登録、国民健康保険への加入、滞在場所、食事、生活費、カウンセリング、日本語教育、保育、学校教育、職業相談、通訳・翻訳機が提供された。
「日本との繋がりの無いウクライナ人に対しては簡単にできたことを、長年日本のために働いたアフガニスタン人には拒んだ。」
ウクライナ避難民への対応は日本が「やろうと思えばここまでできる」ことを実証したものであり、著者は「今後の庇護政策は全てウクライナ避難民を最低基準としなければならない」と。