橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
そもそも国連の難民条約において「難民」がどう定義されているのか、世界では難民をどのような方法で受け入れているのか等、これまで正確には知らなかった様々なことが整理され理解できた。
SNSで拡散される、フェイクで溢れかえった「難民受け入れ」の「是非を論じる大前提として、必須の事実と論理の提供を目指す」と冒頭にある。
サブタイトルにある通り、難民受け入れとはその時々での外交政策の利害関係が如実に反映される、人道と国益が複雑に交差する営みであることが明らかになる本であり、諸外国の、そして日本での現在の状況や懸念点についても詳細に説明されていて、めちゃくちゃオススメです。
(冊子の印税は日本のアフガニスタン現地職員の女児の教育資金のために全額寄付)
橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
◆世界での難民の受け入れ方
① 「待ち受け方式」
難民受け入れ国へ自力でたどり着いた人が庇護申請を行う方法。
難民条約の批准国は、自国で庇護申請を行った人を難民認定審査を経るまで迫害を受けるおそれのある出身国に絶対に送り返してはならない「ノン・ルフールマン原則」を遵守せねばならない。
そのため多くの国で、庇護申請の責任を負わずにすむように難民が自国にたどり着かないよう必死で策を講じている。(地中海でボートピープルをたらい回しにするなど)
②「連れて来る方式」
最初に一時庇護された国から別の第三国へ難民として受け入れられ定住する「第三国定住」が、UNHCRの支援で行われている。
第三国定住は、難民の選定から定住プロセスまでを受け入れ国が主導権を握り秩序だって実施できるため、「先進国」政府に好まれている。「都合が良く、かつ人道的」だから。
この「連れて来る方式」を拡充する代わりに、「待ち受け方式」での受け入れを厳しくする傾向がある。
ボートピープルの拒否などで非人道的との謗りを免れるために、厳格な国境管理という国益と、脆弱な難民の受け入れという人道が複雑にねじれた政策。
橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』
◆日本の向き合い方
2021年タリバンがアフガニスタン全土を制圧した際、各国がアフガニスタン現地職員とその家族を大規模に自国へと退避させる中で、日本は差別的で非人道的な対応を取り、長年日本に協力した多くのアフガニスタン人を見捨てた。
2022年、ロシアのウクライナ侵攻から一週間も経たずに日本政府は避難民受け入れを発表。
来日希望のウクライナ人は身元保証人無しでパスポートが無くとも無条件に短期滞在査証が発給された。
入国後は就労可能な在留資格、住民登録、国民健康保険への加入、滞在場所、食事、生活費、カウンセリング、日本語教育、保育、学校教育、職業相談、通訳・翻訳機が提供された。
「日本との繋がりの無いウクライナ人に対しては簡単にできたことを、長年日本のために働いたアフガニスタン人には拒んだ。」
ウクライナ避難民への対応は日本が「やろうと思えばここまでできる」ことを実証したものであり、著者は「今後の庇護政策は全てウクライナ避難民を最低基準としなければならない」と。