“ひととは違う”成瀬の様子を外側の視点から何度も描きながら、最後には成瀬を視点主人公に据えるところも良かった。成瀬の内側は外側から見たのと実は変わらないのだけど、やっぱり語られる側だけに置かれるのは不公平だから、語る存在として登場し直したことが本当に良かった。
地の文がマジで読みやすかった。こんなに滑らかに読ませる著者の技量が好き。地の文がいい小説が好きなので感服しました。また、成瀬の“ひととは違う”言動で読者を笑わせようとするのではなく、巧みな文章を用いた作品全体でくすぐりに来る姿勢も好き。軽やかだが軽すぎない。特に今日の自分はクサクサしていたのだが、それでも笑いな素直に出てきた。ちょうど今日読んでよかったな〜になりました。ありがとう。
p174で訪れた新築マンションの説明文『棟内モデルルームは十二階にあった。西部大津店は七階建てだったから、以前は空だった場所である。足を踏み入れた成瀬は、自分が西部の上空に浮かんでいる気分になった。』を読んだ時に、もうワーッ!となった。「以前は空だった場所である。」この想像力と、素朴かつ詩的な表現よ。見習いたい。
三浦しをんの底抜けに明るい作品(最近だと『エレジーは流れない』)や『スキップとローファー』好きな方は好きかもです。