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honto.jp/ebook/pd_32295987.htm

『成瀬は天下を取りにいく』めーっちゃくちゃ面白かった! 連作短編集で、一本目から成瀬さん天下を取ってくれ!と応援したくなる魅力に溢れていた。
中学生の成瀬あかり(文武両道成績優秀字も上手い。二百歳まで生きる予定で生存確率を上げるためにサバイバル知識が豊富で毎夜9時就寝)が暮らす滋賀県大津市には西部デパート大津店が在った。ところが44年の歴史に幕を下ろすことに。八月末の閉店に合わせ、夏休みの一カ月を西部大津店に通い、ローカルニュースのテレビカメラに映り込み続けると宣言する成瀬。宣言を聞いた友人・島崎みゆき(成瀬と違って自分は平凡だと考えている。成瀬史は見届けたいので行動を共にするが成瀬史には刻まれたくないとも考えている。時すでに遅し)は約束通りローカルニュースを見届け、たまに一緒にカメラに映り込みに行ったりするのが第一話。
それからM-1グランプリに挑戦してみたり、かるた大会で頭角を現したりもする。
中2〜高3までの成瀬の一年一年の中からトピックを掬い出す形式だが、内容は薄さを感じさせない。五年後には西部大津店跡地に何か長ったらしい名前のマンションが建ったように、時の流れを感じさせる落ち着きを湛えた小説 〉
  

“ひととは違う”成瀬の様子を外側の視点から何度も描きながら、最後には成瀬を視点主人公に据えるところも良かった。成瀬の内側は外側から見たのと実は変わらないのだけど、やっぱり語られる側だけに置かれるのは不公平だから、語る存在として登場し直したことが本当に良かった。
地の文がマジで読みやすかった。こんなに滑らかに読ませる著者の技量が好き。地の文がいい小説が好きなので感服しました。また、成瀬の“ひととは違う”言動で読者を笑わせようとするのではなく、巧みな文章を用いた作品全体でくすぐりに来る姿勢も好き。軽やかだが軽すぎない。特に今日の自分はクサクサしていたのだが、それでも笑いな素直に出てきた。ちょうど今日読んでよかったな〜になりました。ありがとう。
p174で訪れた新築マンションの説明文『棟内モデルルームは十二階にあった。西部大津店は七階建てだったから、以前は空だった場所である。足を踏み入れた成瀬は、自分が西部の上空に浮かんでいる気分になった。』を読んだ時に、もうワーッ!となった。「以前は空だった場所である。」この想像力と、素朴かつ詩的な表現よ。見習いたい。
三浦しをんの底抜けに明るい作品(最近だと『エレジーは流れない』)や『スキップとローファー』好きな方は好きかもです。

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