現象学の創始者E.フッサールに『デカルト的省察』という著作がある。
フッサールは元来、微積分学を数学的・厳密に定義したワイエルシュトラスの弟子、助手だった。
従って、フッサールの関心は数学・論理学を代表とした精密科学の「基礎づけ」。
現象学という方法は、数学・論理学の「厳密な基礎づけ」のためにフッサールによって提唱された方法である。
無矛盾的命題群の基礎づけは、ヒルベルトの公理主義的立場からも試みられたが、これはゲーデルの不完全性定理によって挫折。
フッサールは数学的には直観主義的立場に近いが、「厳密さ」を徹底して追及する中で、数学的には排除される「内的時間」に突き当たることになる。
精密科学の基礎づけは当時のH.コーヘン、E.カッシーラーなどカント派哲学者の関心でもあったが、フッサールは最終的にデカルト的「コギト」に回帰する。
面白いのは、この「コギト」への回帰が「科学」批判へと繋がり得ること。
その典型は「生物の目的は自己のDNAの複製を残すこと」という分子生物学に基づいた疑似科学的主張への「民主的」批判。
つまり、誰でも己の「コギト」=意識に問いかけることで、科学教を批判することができる。現代思想は「意識」を問わないことで「科学教」に対して逆に無力となった。