大江の「新しい人よ、目覚めよ」は、現代文学に読み慣れていない人にも広がりのある「カタルシス」型の作品で、それはそれとしていいと思う。
ここで大江が伴走しているのは、ダンテの神曲の挿絵を描いた18世紀末のイギリスの詩人、W.ブレイクである。ブレイクの周辺には近代アナーキズムの創始者にして「政治的正義」の著者、W.ゴドウィン、妻のM.ウルストンクラフト、娘のメアリー・シェリー、そして夫のP.Bシェリーたちがいた。
要するに、イングランド急進派としてフランス革命を支持した知識人達だ。メアリウルトンクラフトはバークの『フランス革命に対する省察』を批判して『女性の権利の擁護』を書いた。
言論の自由で有名な筈の英政府は彼らを弾圧。表現活動を不可能にした。ワーズワース、コールリッジは転向、前者は桂冠詩人となった。
元来とりたてて政治思想がなかったバイロンはオスマン帝国領ギリシアの削り取るための「独立運動」に参加、病没。「ギリシア独立の英雄」と讃えられたバイロンの軌跡などは今日では典型的な「オリエンタリズム」とされるだろう。