ロベール・ブレッソン「スリ」
ドストエフスキー「罪と罰」
inspire by の映画なのですが、最後主人公が身近にいた女性への愛に目覚め、国外に逃亡して「幸せ」(?)に暮らす、というオチがフランス映画らしくおもしろい。
ラスコーリニコフが「大地に接吻して許しを求め、ロシアへの愛」に回心する、原作と比較すると、反社会的な(と設定されている)「スリ」の主人公は、社会への反省や大地への愛などへの身振りを一瞬たりとも垣間見せることなく、身近にいた「個」としての女性への愛に目覚め、孤独から脱出する。
もちろん、そのために主人公の犯す犯罪は「殺人」から、「スリ」に変更されてはいるのですが。
「犯罪」に対する社会的規範も、フランスらしい。つまり「人」に対する殺人・傷害は「罪」と見做されるが、「物」特に「不労所得」ないし「搾取」よる財産に対する「盗み」は基本的には「罪」とは見做されない。
プルードンの「所有とは盗みである」の感覚が民衆のなかで共有されている、と言えるでしょう。
ただ「現実」ではフランスは強力な警察国家ではあるので、暴力的に取り締まります。
1789年の革命以来フランスは支配に対する「同意」がいわめて脆弱な国家であるために、それだけ強力な治安権力が必要とされました。