ループものでは「やり直すことで人を救う」は割と定番なのだが、一種のレスキューとしてループ者を組織化したところに読みどころがある。
ループものの構造的な難点のひとつに「自覚あるループ者が限られている場合には、物語の語り手/語り口が制約を受ける」ことが挙げられる。すなわち、ループが起きていることを知っている読者はそれを知らない語り手には没入できない(なぜなら、それを知らない語り手は読者に既に1回起こった既知の情報しか語ることができないため)という難点があるのだ。さらに噛み砕くと、読者はループ者の視点から「しか」新しい情報を得られないということ。
本作は、それに対して、ループ者を組織化し複数のループ者を用意することで、語り手/語り口のバリエーションを増やした。一例として、巻戻士の師弟関係やライバル関係を、主人公とは別の視点を用意して立体的に語ることに成功している。
さらにループ者にそれぞれに固有の、時間をループする以外の時間を操る能力を与えている。当然、組織化されているので時間を操る能力を複数人で協力してより複雑化させることができるのだ。これにより、時間エスエフとして極めて奥行きのある読み心地を生んでいる。