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アンナ・カヴァン『眠りの館』

bunyu-sha.jp/books/detail_nemu

キャンバスに絶えず油絵の具が塗り付けられ、刻一刻と画面が変化する。絵が浮かび上がってきたかと思うと、全く違う色彩が上からぶちまけられ、先ほどまで見えていたはずの絵が別の絵に上描きされていく。絵が変わるたびにタッチも変わる。よく見ると共通の画題があるようだが、朧げなそれが何かはわからない。絵の具は厚く重ねられて層を為し、横から見ると何か別の絵画のように見える、という感じの、小説のような散文のような不思議な連作。

「普通」に馴染めず苦しみながら成長していく少女の一人語り(昼)と、荒唐無稽で奔放でイメージ豊かな文字通りの夢(夜)の世界が交互に描かれる。昼夜どちらにも「母と娘」がおり、母はどこか冷たく、娘は不安に苛まれている。この母娘には作者自身が投影されているようだが、母娘の周囲を駆け回る夢がカラフルでやかましいぶん、彼女らのセピア色の孤独が際立つ。

目まぐるしく変化する「夜」の中には、印象派やあるいはデ・キリコの絵の中に飛び込んだような世界があり、なんと『源氏物語』もある。そして、そこかしこに戦争が登場する(出版は第二次大戦直後)。昼の「明るい」世界とは、戦火に照らされた世界でもあるのかもしれない。

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