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梨木香歩『椿宿の辺りに』

いわくつきの家の謎を解くという因習ミステリーじみた筋立てながら、おどろおどろしさは皆無、さらに主人公は鬱と肩の痛みで始終苦しんでいるにもかかわらず、クセのある人々のやりとりが妙にカラッとした笑いを誘う不思議な物語だった。

中空構造という言葉が出てきたので河合隼雄氏の著書を思い出しつつ読み進めていたのだが、主人公たちの抱える痛みが、祖先の「家」の危機とリンクしているところにユング的な集合的無意識や共時性を思い出さなくもない。また、氏の著書には神話や物語を分析するものも多いが、『椿宿』の中では、兄弟の嫉妬の話である「山幸・海幸」の神話に新たな解釈が与えられている。それによって苦しみの象徴のようだった名前の意味が、穏やかに反転するのが快い。

姉妹編の『f植物園の巣穴』は数年前に読んだが、当時はいまいちピンと来ず手放してしまった。『椿宿』のはじまりの物語でもあるので読み直そうと思う。たしかそちらも「痛み」をめぐる話だった。日々体の衰えを感じている今なら、いろいろ得心できるところがあるかもしれない。

publications.asahi.com/ecs/det

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