自宅の軒先に茅と藁で作った梯子をかける。これを「願返し(願戻し)」というらしい。僕は初めて見たのだが、しつらえた人たちもなんと誰もその正しい由来を知らなかったので調べてみた。故人が今生の死をもって改めて仏様の元で修行を始めるにあたり、生前あちこちの神様に願をかけてきたことを清算しますという誓いの証のために茅と藁の梯子を軒先に吊るしておく。そして、出棺後に故人と血縁のない者がそれを切り離して撤去する。つまり故人はこれから仏になるのだから二度と今生の家には戻させません、退路を絶ちますという意味の呪詛的風習なのだそうだ。
日本は八百万の神の国だとか言いながら仏式の葬送には実はけっこうシビアな誓願が求められているということがわかった。死んだら八百万の神とは縁を切れという話。そりゃあクリスマスだのバレンタインだのハロウィンだの、それらまこの国ではどこまでもファッションだものね。敬虔なクリスチャンにはきっと迷惑な話なんだろう。