『悪役令嬢の中の人』は、転生者と悪役令嬢の魂が同居(これなら前例はある)し、のみならず、人格交代がアンコントローラブルに進行してしまうため、まるでシャーマニックな憑依のようなモメントを持つのが特色。
また、悪役令嬢/正ヒロインの関係は、普通は前者から後者に通常はかませ犬ポジションが移動する作劇を伴い、このペアが鏡合わせになるのものだが、今作では、悪役令嬢に善良な転生者(の魂)が入ることで、鏡合わせが悪役令嬢内部だけで確立されている。
この結果、転生者の善良性と、悪役令嬢の策謀が同居するハイブリッド展開を起こすのだが(漫画版ではそれを顔の演出で激しく動かしている)、転生者の行動が倫理的基準になる離れ技が生まれている。ミニマルなプロテスタンティズム?
とはいえ転生者が引っ込んだ後は、元人格が統合的に動き出すため、善行のすべては擬態となり、あらゆる称賛をあたかも自分に対するものではないかのような「承認と欲望の逸らし方」が見られる。かように歪みが激しいのだが(なにせ終盤では正ヒロインポジの歪み顔キャラは、舌を切り取られ、炭鉱便所女にされるのだから、主人公はちっとも善良ではない)、歪み方が面白い作品。
SNSにおける漫画版のプロモーションは、正ヒロインポジの歪み顔コマをこれでもかと連打しているので、すごく安っぽい煽り方をしている。
やたら漫画版が凝った作りだとはいえ(原作なろうはかぎりなくト書きに近い)、その釣りとざまあ展開が根幹にある作品なので、そう間違いでもない。