“イタイイタイ病には、二つの差別が関わっている。ひとつは、この病気が遺伝病とか「業病」とみなされたことにより、患者と家族に向けられた差別で、それは家族との婚姻忌避に顕著に現れていた。
そして、もうひとつは、戦後の民主主義のもとでも流布された“貧困”“封建的”という富山県の農村に向けられた地域差別意識である。これが、栄養障害説の根拠ともなっている。イタイイタイ病が問題化した時期は、高度経済成長の渦中であった。まさに、この時期、北陸は経済発展から取り残された地域として意識され、「裏日本」という呼称が汎用された。遅れた「裏日本」の農村に多発する「奇病」、イタイイタイ病のそうしたイメージが社会に焼き付けられていった。”
裏日本
近代日本を問いなおす
古厩 忠夫 著https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b268341.html
イタイイタイ病およびカドミウム中毒問題の被害・加害構造に関する環境社会学的研究 渡辺 伸一ほかhttps://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15530330/
差別の日本近現代史
包摂と排除のはざまで
黒川 みどり
藤野 豊https://www.iwanami.co.jp/book/b223928.html
“一九六五年二月、『文藝春秋』五三巻二号に児玉隆也の「イタイイタイ病は幻の公害病か」というルポが掲載される。それは、イタイイタイ病の主因はビタミンDの欠乏であるとする説を詳細に紹介し、カドミウム説を「魔女狩り」と比喩するもので、まさに、イタイイタイ病は萩野や原告・弁護団によって捏造された「幻の公害病」であったと結論付けるものであった。”
“さらに、『文藝春秋』は、同年一二月の五三巻一二号にも、「グループ一九八四年」という覆面グループによる「現代の魔女狩りー日本社会は狂っていないか」と題するルポを掲載、公害を告発し、企業に賠償を求める行為を「現代の恐喝」と表現し、イタイイタイ病裁判を「全く「非科学的」な諸基準、規制値をつくりだし、莫大な経済的負担を日本社会に負わせつつ、一部の公害告発屋、魔女狩りの狩り手たちだけを富ませる結果となった。」と全否定した。”
“日本鉱業協会は、児玉隆也のルポが掲載された『文藝春秋』を大量に購入し配布、さらに二月ニ六日には、第七五回国会衆議院予算委員会第一分科会で、自民党の小坂善太郎は、児玉のルポを根拠に、一九六八年の厚生省見解への環境庁の認識を質した。”
“判決では原告が勝利した。しかし、その後の政治は、判決を疑問視する潮流を意図的につくりだし、それを一定程度、定着させてしまった。
それを可能にしたのは、日本海側の農村に対する「後進的」「封建的」という差別と偏見であった。自らの責任を隠蔽するために公害の被害地域の「後進性」を強調する企業の差別的論理は、後述するように水俣病の場合においても同様であった。”
https://www.iwanami.co.jp/book/b223928.html