“イタイイタイ病には、二つの差別が関わっている。ひとつは、この病気が遺伝病とか「業病」とみなされたことにより、患者と家族に向けられた差別で、それは家族との婚姻忌避に顕著に現れていた。
そして、もうひとつは、戦後の民主主義のもとでも流布された“貧困”“封建的”という富山県の農村に向けられた地域差別意識である。これが、栄養障害説の根拠ともなっている。イタイイタイ病が問題化した時期は、高度経済成長の渦中であった。まさに、この時期、北陸は経済発展から取り残された地域として意識され、「裏日本」という呼称が汎用された。遅れた「裏日本」の農村に多発する「奇病」、イタイイタイ病のそうしたイメージが社会に焼き付けられていった。”

裏日本
近代日本を問いなおす
古厩 忠夫 著iwanami.co.jp/smp/book/b268341
イタイイタイ病およびカドミウム中毒問題の被害・加害構造に関する環境社会学的研究 渡辺 伸一ほかkaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKEN

差別の日本近現代史
包摂と排除のはざまで
黒川 みどり
藤野 豊iwanami.co.jp/book/b223928.htm

イタイイタイ病栄養障害説
“すなわち、富山平野という米の単作地帯であるがゆえの米食過食と農繁期の過労働、それゆえの産前産後の休養の過少、そして日照時間の少なさ、迷信に囚われた食生活、妊娠中の女性に栄養を与えない舅姑気質をあげ、さらに「性生活の無智」を指摘する。これはどういうことかと言うと、楽しみの少ない農村では、睡眠時間が四六時間しかとれない農繁期でさえ、妻は夫の性交の相手をしなくてはならず、そのため、さらに睡眠時間を短縮させ、疲労を高めるというのである。”

“まさに、当時、富山県の「封建的農村」に暮らす人びとの栄養や衛生への無知と女性への差別意識がもたらした餌不足が原因の骨軟化症がイタイイタイ病であるという認識が定着されようとしていた。

iwanami.co.jp/book/b223928.htm

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“一九六五年二月、『文藝春秋』五三巻二号に児玉隆也の「イタイイタイ病は幻の公害病か」というルポが掲載される。それは、イタイイタイ病の主因はビタミンDの欠乏であるとする説を詳細に紹介し、カドミウム説を「魔女狩り」と比喩するもので、まさに、イタイイタイ病は萩野や原告・弁護団によって捏造された「幻の公害病」であったと結論付けるものであった。”

“さらに、『文藝春秋』は、同年一二月の五三巻一二号にも、「グループ一九八四年」という覆面グループによる「現代の魔女狩りー日本社会は狂っていないか」と題するルポを掲載、公害を告発し、企業に賠償を求める行為を「現代の恐喝」と表現し、イタイイタイ病裁判を「全く「非科学的」な諸基準、規制値をつくりだし、莫大な経済的負担を日本社会に負わせつつ、一部の公害告発屋、魔女狩りの狩り手たちだけを富ませる結果となった。」と全否定した。”

“日本鉱業協会は、児玉隆也のルポが掲載された『文藝春秋』を大量に購入し配布、さらに二月ニ六日には、第七五回国会衆議院予算委員会第一分科会で、自民党の小坂善太郎は、児玉のルポを根拠に、一九六八年の厚生省見解への環境庁の認識を質した。”

iwanami.co.jp/book/b223928.htm

“判決では原告が勝利した。しかし、その後の政治は、判決を疑問視する潮流を意図的につくりだし、それを一定程度、定着させてしまった。
それを可能にしたのは、日本海側の農村に対する「後進的」「封建的」という差別と偏見であった。自らの責任を隠蔽するために公害の被害地域の「後進性」を強調する企業の差別的論理は、後述するように水俣病の場合においても同様であった。”

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